タイトルのお言葉、だれが言ったかか分かりますか?せっかくですからクイズにしましょうか?
- アッラー
- ヴォルデモート
- 織田 信長
- イエス・キリスト
- ジョン F ケネディ
さあ誰でしょう?誰も答えないなら当ててみましょうか。では、そこのふさふさの人!
…
…
…
ああ、すいません。ふさふさの人などと言われると、あまのレベルのドフサでないと答えづらいですよね。2番の選択肢のあの人みたいな方なんて特にね。よろしい、私が答えましょう。
正解は4番のイエス・キリストです。『新約聖書』「マタイによる福音書」26章52節のエピソードの中でのセリフです。イエスは、自分が捕らえられそうになった際に抵抗して剣を抜いた弟子に対してタイトルのセリフ(聖句)を発し、剣を捨てるよう命じたのだそうです。
さて、前々々回の記事、前々回の記事、そして前回の記事で男児の夢であるオリジナル武器の作成をしてきました。とうとう今回が最終回、鞘の作製です。さびしいなぁ(^_-)-☆
鞘の構造
刀身を納めて事故を防ぐ鞘ですが、これは柄と同様朴の木でできております。保管のための装飾の無い白鞘と外に持ち出す際の塗鞘がありますが、趣味で作るプラスチックの模造刀に前者は不要ですので、今回の作刀工程では後者のみを製作いたします。解説もそちらについて行います。
一般的な塗鞘の構造は下図の通りです。結構簡単な作りにしたので、フルコースでパーツを盛った場合と比べると大変簡素です。具体的には、栗型と鞘尻の間に返角(かえりづの)が無い、鞘尻のところに鐺(こじり)が無い、鯉口の差し表側に笄櫃が無い、差し裏側に小柄櫃が無いと無い無い尽くしです💦ただ、こういうシンプルな方が一般的じゃないかと思います(注:根拠不明)
あまのの鞘に無いものも含めて以下鞘のパーツについて説明していきます。
鞘の外装
鞘全体の印象の8割程度は外装によって決まります(あまの調べ)。
ポマードでカッチリテカテカ七三分けの中年管理職のように黒くて艶のある呂色塗(ろいろぬり、蝋色塗とも書く)、ザラザラ感のある石目塗(いしめぬり)、煌びやかな模様が描かれた蒔絵塗(まきえぬり)など、塗り方が違えば印象もがらりと変わります。
塗り以外のバリエーションもあります。刻みをつけて節が連なっているようにしたデザインや、柄のようにエイの皮を巻いたり柄糸を巻いたものがそうです。
特殊なデザインは難易度が高すぎるので、自身のある人以外はシンプルな外装にすべきかと思います。
鯉口
鯉口は、刀の入り口となる部分です。いいとこの出の方なら池の鯉に餌をあげた経験があると思います。その時の鯉の口を思い出してください。パクパクしていますね。あまのと同等の出自の方でも鯉登は見たことがあるでしょうか。あの口の形を思い出しましょう。鞘の口の部分とそっくりですね。
あまの製の鞘は鯉口の部分は木を貼り合わせただけですが、水牛の角や金属で補強しているものもあります。
鯉口の内側は鎺に接しており、両者の間に程よい摩擦が生じることで刀身の滑落が防止されます。ちなみに、抜刀の前段階で鎺の部分を鞘から引き出す操作を「鯉口を切る」と言います。痛そうな表現ですね。傷ついたらお薬塗ってあげましょう。
小柄・小柄櫃
小柄は、鞘の差し裏側に作られた小柄櫃に納められる小刀です。幅が10-15mm、長さが10-15cm程度のものが多いようです。ペーパーナイフ的に用いられるほか、緊急時には戦闘にも用いられたといいますが、時代劇であるような投擲用の武器としては用いられなかったという説が有力です。
目貫、小柄、そして後述の笄を同一作者が同一意匠で作ったとき、これらをセットで三所物(みところもの)と呼びます。さらに、縁金と柄頭が加わると五所物(いつところもの)です。鍔が仲間はずれなのはかわいそうですね…
小柄や笄については、打刀の鞘にセットしたという説と、殿中でも着用した脇差に差したという説があります。本当のことは当時の人にしか分かりませんので、作るときにはご自身の都合に合わせて設計すればよろしいかと思います。
笄・笄櫃
笄は、鞘の差し表側に作られた笄櫃に納められる棒状の道具です。櫛代わりに用いられたと言われております。柄頭側には耳かきのような突起がついておりますが、これについては本当に耳かきとして使われたという説と、左手の親指を引っかけて出しやすくするためのものという説があります。
笄には、分割式の割笄(わりこうがい)というものもあるそうです。箸として使ったとか、割符代わりに使ったとか、用途には諸説あります。
栗型・下緒
刀の鞘を帯に止めるためのパーツの一つが栗型です。この名前が付いた時代には栗の形に見えたそうなのですが、ナウなヤングでふさふさ✨のあまのにはアルファベットの大文字のDに見えます。時代にあわせてD型と呼んではいかがでしょうか。なんか血液型みたいですね。血液型占いだとどういう結果になるんでしょう。
栗型に通す紐を下緒といいます。長く伸ばして垂らしたり、伸ばした先を帯に結んだり、複雑に結んだりします。最初に鞘を帯に固定するためのものと書きましたが、結び方によっては装飾的な意味合いが強くなります。色や模様、結び方で鞘の印象が結構変わります。あまのは色彩感覚にも編み物にも自信が無いので、作刀時には下げ緒が鬼門です。結び方には簡単な茗荷結び、長い紐を何回も複雑に編む浪人結び、蝶結び、大名結びなどがあります。最近は個人が動画をネットに上げることのハードルが下がったので、結構簡単に結び方見つけられますね。上の写真は蝶結びになります。
下緒は、鞘を固定するだけでなく、敵を捕縛したり止血に用いたり、たすき代わりに用いるなど、栗型からほどいて様々な用途に用いたと言われております。皆様なら何に使いますか?やはり、頭に載せますか?
返角
鞘が帯から抜けないために設けられたパーツの二つ目が返角です。鞘の差し表側、中央より鯉口よりに設けられたフック状のパーツです。フックの先は鯉口側を向いています。このため、鞘が帯から抜けそうになった時に引っかかってくれます。不意を突かれて敵に刀を奪われそうになった時などに備えて発明された機構です。逆に、納刀したまま帯から鞘を引き抜き打ち据える場合、端的に言うと薩摩剣術の流儀?ですが、この場合はフックが邪魔になります。なので、薩摩拵ではフック状ではなく、丸い突起状の部品が取り付けられます。
なお、あまの作の二振りは、破損を恐れて返角は取り付けておりません💦
鞘尻・鐺
鞘の鯉口の反対側、切っ先が収まる部分を鞘尻といいます。何も加工しないで朴の木を貼り合わせて漆を塗っただけの場合もありますが、鐺(こじり)と呼ばれる金属の装飾品がつけられることもあります。地面に擦って破損しないか不安になりますね。でも、あると高級感が醸し出されると思います。
各パーツの作成方法
さてさて、構造の基本知識が頭に入ったところで作成に移りたいと思います。基本的には柄と同様です。必要に応じて柄の記事をご覧ください。ただ、柄の3倍くらい長いので、ご覚悟を!!!
切り出し~溝彫り
まずは、柄と同様に差し表側と差し裏側の二枚の木の板を用意します。反ってないかどうかよく確認しましょう。
柄の時は、外形を最初に切り出しましたが、鞘の場合は全長が長いのでちょっとした設計ミスでも取り返しのつかない結果になります。溝を彫っている途中で外形線とのミスマッチに気づいた場合、板を買うところからやり直しとなります。なので、よほどの自信が無い限りは、先に溝を彫って溝にあわせて外形線を設計します。
刀身から鎺や切羽、鍔を外し、差し表か差し裏の一方の板の上に乗せ、設計線を描きこみます。その後、刀身の厚みの半分の深さの溝を彫ります(あまのの場合6mmのプラ板なので溝は約3mmの深さ)。ルーターに円盤状のドリルビットをつけて、「円盤がギリギリ埋まらないくらい」などの目安を設定して溝を作りました(使用するビットによってこの目安は変わります)。これだけだとがたつきがあるので、溝の底面や側面はやすりで整えました。
柄の時は茎がまっすぐだったので溝を彫って終わりでしたが、刀身には反りがあります。このため、刀身の外形ぴったりの溝を彫っても抜き差しできません。峰や刃の方に何mmか溝を広げる必要があります。場所によって峰と刃のどちら側を削るかが変わってきます。柄の時と同様に刀身の形の溝を彫ったら、溝に沿って刀身を出し入れし、干渉する部分を削って抜刀・納刀がスムーズにできるよう溝を拡大します。この時、拡大しすぎると鞘の外形がおデブになってみっともないので、拡大は最低限にしましょう。その結果が以下の写真です。打刀作成時の写真です。なぜか鎺つきの写真ですが、鎺は外して調整しましょう。鎺のための溝はあとで彫り出します。
切先のところを少し余計に削っています。本物の刀の場合、抜刀や納刀の際に鞘が削れその際生じた木屑が中にたまるそうです。たまった木屑のせいで抜き差しできないと困るので、切っ先部分にこのように木屑をためるスペースを作るのだそうです。プラスチックの模造刀の場合削れるかは分かりませんが、念のため彫っておきましょう。
次に、刀身に鎺をセットして鎺を納めるスペースを彫り出します。ここまでやったら片側の柄下地はひと段落です。もう片方に着手します。
柄下地の時と同様、鞘の場合も反対側を作るのは緊張します。やはり、一番重要なことは、刀身が収まることです。二枚の板に彫った溝がずれてはいけません。なので、二枚目の板はまず溝から作ります。一枚目の板で彫った溝の位置を二枚目に転写するために、一枚目の板の溝を彫ってない部分にアクリル絵の具を厚めに塗ります。絵の具が乾く前に二枚目の板をかぶせて広辞苑などの重い本を乗せて待機します。
これで二枚目の板に溝の位置が転写されます。不十分な部分があればその部分に絵の具を塗ってもう一回転写します。下の写真の状態ですね。下が一枚目で上が二枚目の板です。すごく汚いですが、内側になるので大丈夫です。なお、転写の位置がずれないように、青丸の部分に穴を穿ってピンで位置関係を固定しています。
転写したらまた彫ります。二枚分数十cmも彫るのは大変ですが頑張りましょう。差し表、差し裏の溝が彫れたら刀身を出し入れできるかを確認しましょう。溝の底面に凹凸があると途中で抜き差しできなくなりますので、削って整えます。茎の時と同様に自転車のチェーンに吹き付ける油のスプレーで干渉部を印記して調整を繰り返します。鎺のスペースも忘れずに彫りましょう。
接着の前に鞘の外形を切り出します。あまり攻めすぎると研磨の際に刀身が露出するので、数mm余裕を持たせましょう。接着剤ですが、これも柄の時と同様塗りすぎると刀身のスペースが埋められてしまうので、適量の塗布を心がけましょう。差表と差裏の板を貼りつけると下の写真の状態になります。凸凹して不格好ですが、角を落としていくと滑らかになりますのでご安心ください。
接着剤が十分乾燥し、刀身の抜き差しができることを確認したら外形の仕上げです。鞘の断面は長楕円形~卵円形ですので、角を落としていきます。いきなり完成形を目指して削っていくと多分ひどいことになるので、最初は4mmくらい均等に角を落として八角形の断面を目指しましょう。やすりを使って少しずつ削ります。その後さらに角を落として少しずつ丸みをつけていきます。形が出来上がったら、目の細かいやすりで滑らかにしていきます。栗型をつけたら塗装です!人によってはここから鐺やら小柄やらを作ることになるので、もっと時間がかかります。頑張れ!(適当)
栗型
栗型は柄や鞘の本体を作った時の端材で作れます。アルファベットのDの字に作るだけですので、鞘本体を作ることができた方なら楽勝ですね!ただし、笄櫃を作る場合は、栗型と当たる場所になりますので、設計や工作の際には気をつけましょう。塗りが終わった鞘本体に接着剤でつけておしまいです!塗装は接着より先にやった方が楽かもしれません。
適当すぎてすいません…写真も撮ってません💧
塗装・装飾
エイの皮を巻いた着せ鞘、梅花皮の模様の緻密さが素晴らしいんですが、とても高額です。蒔絵を描く芸術的センスにも自信がありません。そこで、今回は簡単な塗鞘にしました。
床を塗装してしまわないように段ボールを敷いて、アクリル絵の具を薄めに塗ります。そう、これをご覧のあなたの髪のように。最初は片面のみ塗装して、一日くらい放置して乾燥したら反対側です。ひっくり返したときに安定するよう、栗型の接着は本体の塗りが終わってからの方がいいと思われます。均等な塗り具合になっていなければ今度は少し厚めに絵の具を重ねます。
絵の具の水分を吸うと、木材が毛羽立つことがあります。これは触感を大きく損ねるので、目の細かい紙やすりで落としてあげましょう。絵の具も一緒に落ちるので、そしたらもう一回塗りを施します。実際の刀づくりでも鞘塗りは何回も塗っては研いでを繰り返すようです。めげずに頑張りましょう。塗りの厚さは好みにもよります。木目が美しければ透けて見えるくらいでもいいかもしれませんし、合板の継ぎ目がみっともなければ超厚塗りにすることになります。
鞘の木材の材質や絵の具の材質にもよりますが、単に色を付けただけでは触感がざらついていたり光沢が足りないと思います。色味や模様が満足に仕上がったら、ニスで✨光沢✨を出してあげましょう。ニスは絵の具以上に塗りの厚さが重要です。いきなり厚く塗ってしまうと下品な感じになりますので、薄塗りと研ぎを繰り返します。また、筆の硬さも重要で、硬いと筆の運びが線として見えます。それが乾燥すると、皴のような模様になります。鏡面仕上げを目指す人には邪魔でしかないですが、これはこれで風情があると思える人はあえて硬めの筆でやってもいいかもしれません。あまのは水性の透明ニスを使用しました。
ニス塗りの1回塗ったくらいだと下の写真くらいの仕上がりですね。木材の吸水で生じた凹凸のせいでニスが塗れた部分と塗れなかった部分ができてしまったので、この後紙やすりで削って黒の絵の具から塗りなおしました💦
ついでに、金の絵の具で模様を描いたりもしました。乾燥させる時間がボトルネックになりますが、根気よくやるのが大事です。下の写真は下げ緒を結んでしまってますが、完成するとこんな感じになるという写真です。
下緒
下緒の結び方も色々種類がありまして...あまのには難しかったですね。どのデザインが合うかとか、色はどうするかとか、もう頭が混乱してダメでした。なので、ここは無難に仕上げました。複雑な結び方だと長さが必要なので、お気をつけて!茗荷結びとか単純な結び方なら100均で売ってる紐で十分ですので、まずはそちらを試してみるのがいいかと思います。
いやー、ラストが全然締まりませんでしたね💦
今回出来上がった二振り並べてみました。まさに大小二本差しって感じですね~
参考にした/勉強になるwebサイト
あまのの未経験の作刀がどうにかこうにか達成できたのは、以下のような大変勉強になるwebサイトのおかげです。関係者の皆様に心より御礼申し上げます。
刀剣・日本刀の専門サイト「刀剣ワールド」 (touken-world.jp)
“刀都” 関市産の居合刀をお届け – 刀部 かたなべ 日本刀の拵と居合刀の製作・販売 (katanabe.com)
【作画資料】日本刀の種類や構造・描き方 | イラスト・マンガ描き方ナビ (clipstudio.net)
トップページ – 相楽製作所 (sagara-works.jp)
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました!
作った刀はねっとりとご鑑賞ください!
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